S.A.
>>攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX アオイについての一考察

※注 この考察は完全ネタバレなので、最終話まで見終わっていない方は読まないことをお勧めします。



>> Index
はじめに 考察の前提について
Part1 アオイの言動を追う
Part2 考察


>> 今後の更新について 2008/2/2
更新凍結中です。やるといいつつ、数年たってしまいました。
(尚、今まで内容の矛盾や間違いについてのご指摘はありませんでした。)
実は管理人は絵がメインの人で、文章は普段も殆んど書かないので
このページは我ながら奇跡的です。はは。
でもアオイはやっぱり変わらず特別な存在なので、またSAC見たいし
見たらアオイのことをいろいろ考えると思う。突発的にまた更新するかも。
つたない考察ですがどうぞごゆっくり。


>> ひとこと。 2009/7/21
ご無沙汰しております。
きのう、久し振りに 『笑い男 』『アオイ』 でぐぐってみたらですね。
このサイトがWikiの次、二番目に出てきましたよ!
びっくり。
いや〜何年も更新してないのに申し訳ない気もしたり。
ちょっとね、サリンジャー作品関連でちょびっと追記しようかなとか
思い始めたり… いや、どうしようかね。
まあ、ささやかにやるかも。1年以内くらいには。←ほんと亀…



★感想送って下さった皆様ありがとうございます。嬉しく読ませて頂いてますv




◆はじめに

ここではアオイについて好き勝手に考察をしています。
公式HP、公式Log等オフィシャルソースからの情報は考慮していません。
製作者はいわば神であって、作品中で全く語られない事柄も彼らの設定にあれば絶対なのでしょう。
でもそれでは謎解きをする面白さも半減するというものです。
ここではあくまで作品中から得られる情報だけを元に考察することにします。

また、内容についてはここに示した以外の解釈もあるでしょう。
AとBの両方があり得る場合に、ここではAしか記されていないこともあるでしょうが、
このページではその際もBの解釈を否定するものではありません。
すべては「こう考えました。」という一つの解釈だと捉えていただければと思います。
ただ、もしここで書かれていることが論理的に破綻している場合、
理由(SAC本編内容限定)を添えてこちらまで教えてもらえればもういっぺん考え直します。
↑匿名で結構なんで何でもお気軽にどうぞ〜 ※返信は出来ないのでお許しを。



◆Part1 アオイの言動を追う
時期周囲の動きアオイの動き補足「笑い男」像
〜2024 サリンジャー「ライ麦畑」の主人公ホールデンに共感する。アオイはここの頃既にハッキング行為を繰り返し、国立図書博物館に出入りしていたと思われる。(考察参照) 
〜2024薬島議員、企業テロによる金集めを計画するネットで村井ワクチンに関する告発メールを発見。村井ワクチンに関する真実を公にするため、手始めにセラノ社長誘拐を計画する。
この時の行動について、アオイは最終話で「私は私が見える世界を皆に見せるための機械だ」と引用を用いて語っている。特に村井ワクチンに反応した理由については「僕自身電脳化の権化みたいな人間だから少なからず電脳硬化症に対する恐怖みたいな物があったのかもしれない」と述べている。 
2024薬島議員、セラノ氏誘拐事件に乗じて誘拐犯人を騙りセラノ社に身代金要求セラノ社長の周囲を電脳ハックし誘拐予告。続いてセラノ社長自身を電脳ハックして誘拐。2日の議論の後拘束を解くが、セラノ社長の約束破棄に怒りTVカメラの前で告白を迫るも、騒ぎが大きくなり逃走。目撃者の電脳やカメラをリアルタイムにハックして笑い男マークを上書きする。考察参照超特A級ハッカー
目的は身代金
2024薬島議員、笑い男を名乗って次々と企業を脅迫。献金名目で大金を手にする。セラノ氏の約束破棄、さらに自分を利用した企業テロに絶望。すべての事から目を背け、耳を塞いだまま沈黙を続けることを決心する。同上社会→企業テロ犯
黒幕→セラノ氏誘拐以来消息不明
2024〜2030 笑い男事件後、沈黙を守る場所として法務省授産施設に身を潜める。考察6参照  
〜2030インターセプターにより笑い男特捜本部の捜査員の行動が監視される。
又、笑い男事件に幕をひくため、ナナオが笑い男として事件を起こす役割を指示される
   
2030九課、インターセプターに気付きマスコミに情報を流す。
警視総監が記者会見を開き偽りの釈明を行う。
インターセプターにまつわる疑惑に気付く。
記者会見中に刑事部長?の電脳にハッキングし、口を借りて警視総監に真実の公開を迫る。
この際、6年前と同様に警視総監の視覚、TVカメラ等に笑い男マークを上書きする。
アオイは事件の裏に警察の隠蔽工作があることに気付き、我慢ならなくなり再び活動を再開した。後にアオイは「同時多発テロ教唆の罪かな」と言っているので予告がアオイによるものだったとわかる。(この時点でナナオの計画にまで気付いていたかどうかは不明。)またこの事件は暗殺予告として受け取られたが、アオイは総監を「舞台から消去」すると言っているだけであり、欺瞞を暴くことにより社会的に失墜させることを匂わせていたのではないかと思われる。社会→警視総監暗殺予告犯
黒幕・九課→6年前から消息不明
2030予告当日。ナナオは予告を急遽利用し、自分が笑い男として見せかけの警視総監襲撃を行うが黒幕の指示で殺害される。
また自然発生的な多数の笑い男模倣者が総監を襲撃する。
警視総監がどういう行動に出るか、会場を見張っている。ナナオのウィルスで発症したSPの電脳からウイルスをコピーする途中で少佐からアクセスされ、攻性防壁で少佐の身代わり防壁を破壊する。警視総監・その背後の黒幕とも犯行予告をナナオの計画と思っており、警視総監側はアオイのメッセージを芝居と受け取ったばかりか、かえって笑い男事件の真相を隠蔽する工作に一役かうという皮肉な結果となった。社会→死亡
黒幕・九課→6年前から消息不明
2030笑い男登場にネットで噂話がさかんに行われる。
少佐は笑い男事件を討論するチャットルームに参加。チャット参加者ベビールースよりアオイの攻性防壁の断片を受け取る。
チャットの会話をきいているが、内容が核心に迫ってきたため、チャットマスター・オンバと共に少佐を強制的にチャットルームから退去させる。その際、バーチャル図書館で少佐にコート姿を見せる。考察10参照少佐→セラノ氏誘拐犯、総監暗殺予告のみ実施?
2030?法務省授産施設から厚生省に大規模なハッキングが行われる。トグサが授産施設を内偵し、アオイと接触する。厚生省にハッキングし、村井ワクチン関連の情報を探る。トグサの施設内偵を知り施設から姿を消す。その際トグサの記憶を上書きし、「アオイ」の顔の記憶を笑い男マークで上書きする。考察5参照トグサ→アオイは笑い男?
2030?アオイこそが笑い男だと考え捜査を進めたトグサは厚生省から村井ワクチン接種者リストが紛失したことを突き止める。そのことが厚生省上部に報告され、黒幕により以前からリスト開示を要求していたひまわりの会が襲撃される。ハッキングした情報をもとに厚生省から村井ワクチン接種者リストを入手し、今来栖の名を騙ってコピーをひまわりの会に送る。ここでアオイは、以前から村井ワクチン被害について活動を行うひまわりの会に情報を与え、彼らの活動によって告発が行われることを期待したと思われる。しかし、ひまわりの会のメンバーはそのため殺害され、またもやアオイの意図しない結果を招いた。と言うより、アオイの行動が甘かったと言わざるを得ない。 
2030?今来栖、ひまわりの会にワクチン摂取者リストを送ったと厚生省に疑われる。
厚生省の手を逃れ、笑い男→九課と身柄を移されるが、最終的に九課と笑い男の目前で厚生省によって暗殺される。
今来栖を拉致。ハッキングしたホテルマンの口を借りて、今来栖に真実を語るよう求める。
今来栖が殺害される際、自ら帽子をとり素顔を見せる。
バトーにワクチン接種者リストの原本を渡す。立ち去る際、バトーをハッキングして自らの姿を視界から消す。
アオイが素顔を見せたのは、死んでいく今来栖への手向けだったのかもしれない。またこの時、アオイは再び帽子を脱ぎ去ったまま残していく。アオイはバトーの目を盗んだが、顔の記憶を上書きしていったかどうかは不明。バトー→リストを渡したのは笑い男?
2030?厚生省の実働隊の残党、九課に対し攻撃をかける。
荒巻は謀略に会い薬物中毒に。少佐は義体換装の最中に襲われるもアオイに助けられる。
少佐が義体換装中の病院に現れ、少佐殺害を企む偽女医をハッキング。少佐に笑い男事件の真相を伝えると言い、最後の挑戦を行うつもりであること、それを傍観し、もしもの時は真実を告発して欲しいことを求める。少佐は了承。少佐に笑い男事件の真相を記憶として残し、立ち去る。ここでアオイは記者会見での予告、ひまわりの会への情報提供、今来栖への告白要請とすべてが失敗に終わったことに「今の僕はコテンパンでこんな手しか思いつかなかったんです」と言っている。電脳世界と現実社会の中でのアオイのギャップを感じるくだりである。少佐→すべてを知る
2030?少佐、笑い男に扮してセラノ氏を誘拐。セラノ氏から事件の経緯を聞きだし、真実を証言することを決心させる。セラノ氏を再び誘拐しようとセラノ邸に近づくが、九課の動きが速く、実際に誘拐には至らなかった。冒頭でセラノ邸を見上げる笑い男は帽子をかぶっていないためアオイと思われる。また、少佐はセラノ氏誘拐から対話まで、ずっとセラノ氏にハッキングをかけ笑い男の外見と認識させていたと思われる。(後に明るみに出たカメラ画像では明らかに顔立ちが少佐だった。) 
2030?九課、笑い男事件への関連、ひいては組織としての存在を糾弾される。荒巻、九課の表向きの消滅とひきかえに黒幕・薬島幹事長の逮捕を総理に了承させる。九課消滅。顛末をネットから見守る。アオイは少佐とバトーが逃亡をはかり、少佐が狙撃された際もその場の様子を見ていたようだ。最終話で「僕はまた、あなたがあのまま死んじゃうつもりなのかなってちょっと心配しちゃいましたよ」と言っている。社会→九課?
2030?九課表向き消滅するも実際はメンバー再集結。
少佐、アオイに会いに行く。
荒巻、アオイを九課にスカウトするも断られる。
国立図書博物館で司書として働いている。冒頭、アオイが述べる「あの約束の守り方、最高にチャーミングだったな」というのは少佐が笑い男としてセラノ氏の証言を決心させたことを指していると思われる。
図書館の手摺のFUCK YOUという落書き、赤いベレーを後ろ向きにまわしてかぶる仕草は「ライ麦畑」のホールデンへの傾倒ぶりを感じさせる。また、荒巻と少佐が立ち去る際、既にアオイの姿がないが、これは「笑い男」が以降姿を消すという暗示かもしれない。
 
時期周囲の動きアオイの動き補足「笑い男」像




◆Part2 考察

1.アオイはセラノ氏誘拐事件当時どういう生活をしていたのか?
23話で笑い男に扮した少佐の発言によると、当時アオイはセラノ氏に自分のことを「学生」と言っていたようだ。実際に何らかの教育機関に在籍していた可能性があるが、セラノ氏に対して学生と思わせていただけかもしれない。少なくともアオイが何かの知識を得るために学校に通う必要性があったとは思えない。このあたりは事情により形だけ在籍していたとも考えられるのでなんとも言えないところであり、アオイがいつから授産施設にいたのか、という疑問にも関連してくる(考察6参照)

2.アオイはいつから国立図書博物館にいたのか?
最終話、少佐は国立図書博物館のことを"情報の墓場"と評し、「こんなところから世界を変えようなんて本気で考えてたの」と問うが、アオイは「まぁ、始めは幾分」と答えている。ここでの"始め"は総監消去予告ではなく、そもそもの始まりと捉えたほうが自然に思える。何故なら、アオイは最初の笑い男事件で挫折と無力を味わい姿を消し、世界を変えようという意思がその時点で打ち砕かれたからだ。6年後、記者会見で現れたアオイは、口をつぐんだままでいるべきだろうかと自問自答した末に行動を起こしているし、身体は授産施設にあった。とすれば、村井ワクチンにからむ欺瞞を暴こうとした最初の笑い男事件発生の時点で、既にアオイは国立図書博物館で司書の仕事についていたか、または閲覧者として多くの時間を過ごしていたと推測される。

3.アオイはどのように超特A級と言われるハッキング技術を身に付けていったのだろうか。
もともと電脳世界への適応力が並外れていたのだろう。ただ、それが電脳閉殻症のように病的な症状を伴うものであったのか、単に能力として優れていただけなのかははっきりしない。もし電脳閉殻症で11話に出てきたような施設に収容されていたのであれば、施設でシミュレーションを繰り返すうちに自然とハッキング技術が磨かれたとも考えられるが、そうだとしても、少なくともシミュレーションだけではなく実際にネットに出てハッキング行為を繰り返していたと思われる。そうでないと、あの強烈な「世の中のインチキ」に対する義憤は生まれてこないだろう。覗き見により隠された欺瞞・隠蔽が世の中に満ちていると感じたからこそ、「ライ麦畑」に共感し、一層「世の中のインチキ」を強く感じるようになっていったのではないか。

4.アオイは何故笑い男マークに「僕は耳と目を閉じ、口をつぐんだ人間になろうと考えたんだ」と記したのか?
そもそも笑い男マークがいつ作られたのかという疑問があるが、恐らく街頭のテレビ中継は偶然であって、それまでアオイは自らの姿をさらすつもりはなかっただろうから、あのとき咄嗟に作ったと考えた方が自然に思える。その元ネタはひまわりの会のロゴ、コーヒー店のカップのロゴなどであった可能性があるが、「ライ麦」の引用を行ったのは何故なのか。
引用された言葉は、沈黙することを意味している。そしてそれがセラノ氏事件失敗直後のアオイの心理であったとすれば、アオイは自分を利用した企業テロに沈黙を決心したのではなく、セラノ氏事件失敗において既に敗北を認めていた、ということなのだろうか。しかし、最終話では「社会システムの醜悪さに落胆し口を噤んだ」ことを肯定している。実際のところは、セラノ氏の約束破棄によって落胆し、事実上それ以上の行動をとる気力を失ったところに企業テロが起こって完全に口を噤んだ、というところか。世界を変えようと思っていたわりには挫折するのが早く、案外ヘタレに思えるが、アオイは後にも少佐に「これから僕がしでかす最後の挑戦を黙って見ていて欲しいんです」などと言いながら自分は実際そう宣言することで半ば満足し結局何もしなかったという事実もある。アオイは超特A級ハッカーで電脳世界では万能とも思える力を持ちながら、現実社会においては社会適応が不得手な青年なのだから、セラノ氏失敗だけで気力が尽きたという可能性もあるだろう。

※ちなみに、23話で少佐扮した笑い男がセラノ氏に「僕はホールデンの言葉を引用してあなたの説得に失敗したら自分が消えようと思っていただけなのに」と発言する。これは少佐の作った発言とも、アオイから記憶を受け取った少佐が当時のアオイの記憶からアオイの心理を推測した発言(もしくは、心理状態までコピーされたか)ともとれるが、この直前に「自分が挑もうとした伏魔殿の闇の深さに敗れ去った僕もすべての事から目を背け、耳を塞いだまま沈黙を続けるしかなかった」と企業テロにより背後に動く存在の大きさに敗れて沈黙したかのように言っており、2つの発言には矛盾がある。しかし23話の少佐=笑い男発言については少佐の演技かどうか判別するのが困難なため、細かな考察はあまりしても意味がないだろう。

5.授産施設でトグサに何があったのか? 車椅子にのったアオイや「団長」は実在したのか?
トグサが見聞きしたシーンでは記憶がところどころ上書きされているか、目を盗まれたかして体験したと思い込んでいるだけという可能性があるため、ここでは現実だったと思われるシーンと、確実に偽であったシーンを探してみる。現実にあったシーンについてはトグサの見聞き不可能な描写があったかどうか、をポイントとすることにする。
|・現実にあったこと
|「遅いぞ、アオイ!」というクロハの発言 →トグサが扉を開ける前の描写あり
|扉の文字の発見 →誰かがトグサを覗いていた。又トグサが後に捜査の手がかりとしていた。
|少女がアオイの絵を描く →アオイは立ち去るときにスケッチブックを持っていった
|出かける所長と所長室へ忍び込むトグサ →出かける所長の廊下のシーンあり
|トグサが所長室にいるときアオイが入ってくる →廊下で車椅子の車輪が動き出すシーンあり
|トグサが倒れたあと立ち上がるアオイ →トグサの見聞きしていないこと
|クロハと団長の会話 →トグサの見聞きしていないこと
|・偽の記憶
|戻ってくる所長とアンドロイドとの戦闘 →コートを着ていない所長、トグサの頭部の出血の有無、彫像の銃痕から実際にはなかった。
|所長の発言「そんなところを探しても【団長】に関する手掛かりは見つからないわよ」
| →所長が団長の存在を隠しているというのはおかしな話だ。これはアオイのメッセージか。
|所長が白目を剥いて倒れるシーン
| →トグサが見聞きしているシーンではないのだが、この直後、立ち上がるアオイの手前にトグサが倒れているが、上にかぶさって倒れているはずの所長の姿はない。

所長が戻ってきて戦闘になり、トグサが倒れるまでの部分以外はすべて実際にあったことという可能性もあるし、現実であったシーンだけからしても団長と呼ばれていたアオイと、車椅子に乗ってキャッチャーミットを持ったアオイは実際に施設に存在していたと思われる。(車椅子のアオイについては考察8参照
実際のところは、アオイがトグサの目的を確認するためにハッキングをしかけ、所長室で偽の体験をさせた。所長室のシーンの前にも、ところどころトグサが意識の途切れるシーンや幻覚を見るシーンがあり、ハッキングされていることを伺わせる。所長の倒れるシーンは公安九課と突き止めたためアオイがハッキングをやめたという描写と思われる。

6.アオイはいつから授産施設にいたのか?
施設にいた時期については11話での描写が重要なキーとなるだろう。トグサが倒れた後、アオイが施設を離れるシーンでのクロハとの会話がある。ここでクロハは団長=アオイのことを「君」と呼び、「今度も俺たちが守ってやるよ」と言っている。クロハが「君」と呼んでいることは、アオイが元々くだんの施設にいた=クロハの仲間ではなく、あるときどこからかやってきた存在であることを感じさせるものとも言える。一方、クロハの言う「ヴァーチャルシティαから君を応援することも、二度とできないんだな」という口調は、それなりの長い期間にわたってクロハたちがアオイを守ってきたことを感じさせる。
施設の子供たちから団長が守られていた、または応援してもらっていたのはいつからだったのだろうか。これまでのアオイの表だった動きはセラノ氏誘拐事件、警視総監消去予告、厚生省ハッキング(=今回の事件)であるが扉の文字は「再び行動おを起こすべきか」と自問自答する内容だった。とすれば、アオイは警視総監消去予告の前に既に施設にいたと思われる。アオイはセラノ氏誘拐事件のあと(すぐかどうかはともかく)授産施設にやってきて、子供たちの何人かにはある程度事情を明かし、そこに身を潜めていたのではないだろうか。
アオイがどのように施設にやってきたか、クロハたちがアオイと団長の関係をどう理解していたかというのははっきりしない。クロハのアオイと団長への態度の違いは極端とも言えるが、クロハは車椅子のアオイに対して口は悪いがかばっている様子を見せている。もしアオイが6年前に施設にやってきたとすれば、クロハ達は車椅子で電脳閉殻症の症状を見せるアオイ(考察8参照)と日常生活を何年間も続けていることになり、次第にアオイは仲間として認識されていき、一方たまにしか来ない意思を持ったアオイ=団長は特別な存在としてアオイと異なるものとして区別されるようになったとも考えられる。

※余談 クロハは電脳閉殻症らしくなく見えたが、アオイが立ち去った後、壁を向き無表情に立っている姿が出てくる。その記憶自体は残されていないにせよ、団長を失って自閉症状が誘発されたのだろうか。アオイが残したメッセージ「You know what I'd like to be? I mean if I had my goddam choice, I'd just be the catcher in the rye and all.」と合わせて、授産施設はアオイにとって「ライ麦畑」であり、アオイはクロハやオンバを始めとする子供たちを守る存在になりたかったのかもしれないと感じた。

7.授産施設の子供たちはアオイのハッキングを手伝っていたのか?
彼らの強力な防壁破壊能力からすれば、しかもあれだけの人数がいればアオイにとって有力な助っ人になったと思われる。が、実際にハッキングさせていたのかどうか?例えば警視総監消去予告、厚生省へのハッキングなどが行われたが、もし失敗していれば警察や厚生省の攻性防壁に脳を焼かれる危険もあった。アオイが子供たちにそのような危険をおかさせていたとは考えにくい。実際、助けを借りなくとも6年前のセラノ氏事件からすれば、アオイ独りで実行出来ただろうと思われる。クロハの「応援」、「守ってやる」という言葉は、例えばオンバのチャットルームのように世論の動向を探るとか、アオイが施設に身を隠していることをうまくカムフラージュするとか、その程度のことだったのではないだろうか。

8.アオイは電脳閉殻症なのか?
そのハッキング能力からしてずば抜けて電脳適応力が高かったということが考えられるが、電脳閉殻症であったということに触れる発言は出てこない。だが、車椅子のアオイは明らかに電脳閉核症の患者としての症状を示していた。あれは何だったのだろうか。ここでは、アオイの身体と精神(ゴーストと言っても良い。セラノ氏誘拐を起こした意思を持つ存在。ややこしいのでここでは団長と呼ぶ。)の関係からこの点について考えてみる。
・アオイの身体はもともと団長自身のものである。施設に潜むため、何らかの方法で擬似的に電脳閉殻症の症状を模倣していた。
・アオイの身体はもともと施設にいた電脳閉殻症のアオイ少年のものであり、団長がネットを経由してコントロールしていた。
ここで2番目については団長自身の身体が別途必要ということになるが、わざわざ電脳閉殻症の少年の身体だけを借りて施設を抜け出してまでセラノ氏誘拐を起こす必要性が見当たらないので可能性は低い。(尚、意識だけの存在たり得るかという件については最終話の冒頭で少佐と語っており、アオイが殻=身体を持っているとわかる)
従ってここではアオイの身体はアオイ=団長自身のものであったとして話を進める。
電脳閉殻症の症状を装うことは施設に潜むために必要だったわけだが、もしかしてアオイ自身、最終話で自らを「電脳化の権化」と呼ぶ程すば抜けた電脳への適応からして、重度とはいかなくても電脳閉殻症の傾向があり、だからこそ授産施設に身を置いたとも考えられる。しかし少なくともトグサ潜入時点でのアオイははっきりと意思を持った存在(団長)であった。車椅子のアオイはチャットのとき少佐がバトーの言ったことを認識できていなかったように、意識が別の場所にあるか、表に現れていない時の抜け殻のようなものかと思われる。ただ、抜け殻であれば全く反応を示さないのではと思われるが、キャッチャーミットをとりあげられた際の反応にわずかに人格のようなものが垣間見える。これは反応を示すキーが「ライ麦畑」キャッチャーミットであることから、アオイの作った擬似人格プログラムのようなものではないだろうか。そのプログラムによって動いている間、アオイ自身は擬似人格の下に本来の自分隠し、時にはネットにダイブしていたのではないか。車椅子の無反応なアオイがトグサと一緒にいる時、オンバが「団長が来る、さっき知らせがあったんだ」と言っているので、アオイが擬似人格の下で施設のコンピュータにアクセスしてオンバにメッセージを送っていたものと思われる。また車椅子で無反応状態のアオイのスケッチを少女が描いたこともアオイは認識しており、後に持ち去っている。
なお、アオイは団長としておおっぴらにクロハたちの前に現れる時以外にも、時々は意志を持った存在として車椅子を離れて施設の中を行動していたのではないか。トグサの見た冒頭の揺れるブランコは、動きが不自然で見えない人物が漕いでいるように見えたが、あれはアオイが漕いでいたとも考えられる。また、結果的に施設ではトグサを疑っていたのはアオイだけであって所長は気付いていなかったと思われるので、トグサと少佐の通信を伺っていた影はアオイだったと思われる。

※補足 アオイが電脳硬化症だったかという点においては、最終話で「僕の脳みそはすでに硬化し始めている」という発言と、ヅラをとったらコネクタだらけだったという頭部のシーンでいかにも電脳硬化症患者のような印象を受けるが、「でもまぁ僕自身電脳化の権化みたいな人間だから少なからず電脳硬化症に対する恐怖みたいな物があったのかもしれないけど」とも言っているので電脳硬化症ではないだろう。コネクタの数はアオイが一般の電脳化以上のレベルまで電脳化されているということであり、ヅラは病気ではなく、頭髪があるとコネクタが使いづらいから、ということだと思われる。(このあたりも、考察9でアオイが自分の容姿にこだわっていないと思われる根拠になっている)

9.アオイは全身義体なのか?
アオイの義体を示唆する描写はまったくないが、逆に義体でないことを示す描写もない。(21話、今来栖のところに向かうアオイが走って息を切らせているが、身体的反応は義体の種類によると思われる。)唯一、6年前からアオイの外見が変わっていないように見える、という点がわずかに義体ではないか、ということを示しているに過ぎない。顔立ちに関しては頭部の義体化についての考察に限定されるが、11話においてアオイは少年とも青年とも評されている。一般的には少年は18歳位まで、青年は20代(25歳くらい?)であれば適用される言葉と思われるので、恐らく20歳前後に見える容姿なのだろう。少女の描いたスケッチのリアル人物画、クロハと向き合ったシーンも容姿や身長の対比から20代といってもそれ程違和感はない描写だった(これは見る人によるだろうが)。もし6年前の笑い男事件においてアオイが17〜8歳位であり、現在が23〜24歳としてみたら個体差も考慮して生身であるといってもおかしくないだろう。トグサが見たアオイは車椅子に乗り、半ば人形のような状態であったため、余計に少年という印象だったのかもしれない。
ここで、別の面から考察すると、まず当時義体化を行っていたのはそれほど多くはなく、費用もかかる技術だったということがある。義体化していたとすれば、それなりの理由があった場合に限られるだろう。アオイが義体であったとすればどういうケースだろうか。
 ・事故などで必要に迫られてアオイ本人の意思に関係なく義体化された。
 ・アオイ自身が望んで義体化した。
前者はもう想像の域を出ず、本編からは肯定も否定も出来ないが、後者については多少考えてみたい。ひっかかるのはアオイの容姿=美形である、ということである。アオイが、美形の容姿を選んで義体化するだろうか?美形の容姿を選ぶ=虚栄心と考えると「世の中のインチキ」に嫌悪を抱き、真実を明かそうとしたアオイに似つかわしくないように思える。では、外見は生まれ持った容姿のまま、オーダーメイドで義体化のみを行ったというのはどうだろうか。義体化により得られる利点はいろいろあるだろうが、そもそもアオイは集団の中での個の喪失にこだわっている人間である。少なくとも走って息を切らしているあたりスーパーマン化しているわけでもなさそうだし、病気が減るから義体になりたかったというのもピンと来ない。アオイの関心は肉体にではなく、意識にあるのだ。確たる根拠はないが、事故等によりせざるを得なかったというのでなければアオイが義体化している可能性は低いと考える。

10.アオイは何故九課に手がかりを残していったのか?
アオイはチャットのとき既に、総監襲撃の際SPの電脳にアクセスしていたのが少佐(クロマ)だと気付いていたと思われる。少佐とベビールースの会話を盗聴していたのかもしれない。そしてバーチャルな図書館でコート姿の自分を見せている。また、授産施設においてトグサの記憶を完全には消さず、アオイという謎の人物がいた事実を残した上、その姿の記憶をわざわざ笑い男マークで上書きしている。単に身をくらませたかったのであればそんなことをする必要はなく、施設のほかの人間のようにまるごとトグサのアオイに関する記憶を消せば良い筈だ。これらのアオイの行動はわざと九課に手がかりを残しているように見える。アオイは総監襲撃事件において少佐と接触したときから、自分が「媒介者」として真実を伝える相手として九課(少佐)を考えていたのではないだろうか。そのため、積極的に情報を明かすわけではないが、意図的に完全には隠さないことによって逆に九課へ接近していったのではないか。

11.図書館でアオイの言った「それに残念ながら僕、野球が下手ですから」という意味は?
荒巻の「9人目のレギュラーにならんか」という言葉=野球 及び 自分は STAND ALONE であるためチ−ムプレイが苦手の両方をかけて答えたのではないかと思われる。「ライ麦」中に出てくるキャッチャーミット(授産施設でも立ち去る際に残していった)、ライ麦畑の"Catcher"も連想させる言葉だが、アオイは最後までホールデンの如く赤いベレー帽を回してかぶるなどの仕草を見せており、「ライ麦」の世界のキーワードをジョークのネタにする可能性は低いのではないか思う。

※余談 この図書館の会話では、同じ画面上に同時に少佐とアオイが現れているシーンがない。互いに STAND ALONE であるということを表しているようにも見える。ここで少佐が赤いハンチングをアオイに投げ返しているのは、アオイとの約束を守り、「ライ麦畑の捕まえ役になりたい」と言ったホールデンの役割を再びアオイに返したという意味にもとれる。

12.アオイとは何者だったのだろうか?
アオイは授産施設を立ち去る時、メッセージが書かれたキャッチャーミットを残していく。そこに書かれた言葉は「ライ麦畑」からの一節で、「僕はライ麦畑で(子供たちを)捕まえる人間になりたい」というものだった。広いライ麦畑で遊ぶ子供たちが崖から落ちそうになったら捕まえる(助ける)ただ一人の大人になりたい、という主人公ホールデンの言葉だが、ここで子供たちは無垢なものの象徴であって、崖から落ちるとはその無垢が汚されることと言える。アオイは穢れたインチキな世界のなかで無垢で穢れのない正義や真実を守る、「ライ麦畑の捕まえ役」になりたいというメッセージを残したのだ。だが同時に少佐に「無垢な媒介者」と自分を評され、それを肯定している。アオイは、世界を守る人=ライ麦畑の捕まえ役 ではなく、世界のインチキに気付き、崖から落ちることを恐れ、捕まえてもらうことを望んだ子供だったのではないだろうか。「媒介者」として少佐に記憶を渡し、後のことを託したアオイがそれ以上の行動をとらなかったのは、自分のかわりに「ライ麦畑の捕まえ役」となってくれる人物=少佐を見つけたからだったのではないか。




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